原油不足はガソリン代だけの問題ではない
ナフサ不足と医療・医薬品・身体の備えについて
最近、原油やナフサの供給不安という言葉を耳にする機会が増えてきました。
原油不足と聞くと、多くの方はまず、ガソリン代、電気代、物流費、物価高をイメージされるかもしれません。
けれど実は、原油から作られるナフサは、私たちの生活用品だけでなく、医療や医薬品を支える素材にも深く関わっています。
つまり、原油やナフサの不足は、単に「車の燃料が高くなる」という話だけではありません。
薬を作る。
薬を包む。
薬を運ぶ。
医療現場で使う。
清潔な状態で保管する。
そうした医療の土台にも、石油化学由来の素材が関わっています。
実際に厚生労働省は、2026年3月31日に「中東情勢の影響を受ける医薬品、医療機器、医療物資等の確保対策本部」を設置し、医薬品・医療機器・医療物資の安定供給上の課題分析や対応策の検討を始めています。これは、医療供給がエネルギーや化学素材の問題と無関係ではないことを示しています。
医療は、薬だけで成り立っているわけではない
医療というと、私たちは薬の成分や手術、検査に目が向きがちです。
しかし実際の医療現場は、薬そのものだけでなく、さまざまな医療資材によって支えられています。
注射器。
点滴バッグ。
チューブ。
カテーテル。
手袋。
マスク。
不織布。
検査容器。
薬の包装シート。
点眼容器。
軟膏チューブ。
貼り薬のフィルムや粘着剤。
これらの多くには、ナフサから作られるエチレンやプロピレンなどをもとにしたプラスチック・合成樹脂が使われています。NRIも、ナフサ不足などにより点滴バッグや手袋など医療用品の不足が目立つ中、医療用品の原料となるポリエチレンなどの安定供給が課題になっていると説明しています。
つまり、医療は薬だけでなく、薬を安全に使うための素材にも大きく支えられているのです。
薬そのものにも、石油化学の流れが関わることがある
薬のすべてがナフサ由来というわけではありません。
薬には、植物由来、発酵由来、生物由来、鉱物由来、化学合成由来など、さまざまな背景があります。
ただし、現代の医薬品には、化学合成によって作られる有効成分が多くあります。
その合成工程では、石油化学由来の原料、中間体、溶媒などが関わることがあります。
たとえば、解熱鎮痛薬、抗アレルギー薬、胃薬、高血圧薬、脂質異常症薬、糖尿病薬、精神神経系の薬、外用薬など、身近な薬にも化学合成によって作られるものが多くあります。
ただし、ここで大切なのは、「この薬はすべてナフサ由来です」と単純には言えないことです。
同じ一般名の薬でも、メーカーや原薬メーカーによって、合成ルートや原料調達先が異なる場合があります。
そのため、一般の生活者が見られる形で、「ナフサ由来のお薬一覧」が公的に整理されているわけではありません。
医薬品の安定供給については、厚生労働省も医療用医薬品の供給状況について製造販売業者に報告を求め、医療機関などへ速やかに情報提供するため、供給状況を日々公表しています。
薬は有効成分だけでできているわけではない
薬には、有効成分だけでなく、添加物も使われています。
添加物は、薬を固める、溶けやすくする、安定させる、飲みやすくする、コーティングする、ゆっくり溶けるようにする、貼り薬として皮膚に密着させる、軟膏として伸ばしやすくするなど、薬を安全に使いやすくするために必要なものです。
たとえば、
ポリエチレングリコール。
ポビドン。
クロスポビドン。
ポリソルベート。
プロピレングリコール。
アクリル酸系ポリマー。
メタクリル酸系ポリマー。
白色ワセリン。
流動パラフィン。
こうした成分は、薬の形や安定性を支えるために使われることがあります。
もちろん、これらが使われているから悪い、という話ではありません。
むしろ、添加物やコーティング剤があるからこそ、薬は飲みやすくなり、安定し、必要な場所で働きやすくなります。
ただし、ここにも石油化学由来の素材や合成高分子が関わることがあります。
つまり、ナフサ不足の影響は、薬の有効成分だけでなく、薬を薬として成立させるための添加物やコーティング剤にも及ぶ可能性があるのです。
医療用医薬品の添付文書では、添加剤について、注射剤では名称と分量、その他の製剤では名称を記載することが示されています。ただし、そこに書かれるのは主に成分名であり、その上流原料がナフサ由来か、植物由来か、どの国の原料かまでは、通常そこまで詳しく公開されるわけではありません。
薬が完成しても、包めなければ届かない
ここが、かなり重要です。
たとえ薬の有効成分が作れたとしても、薬を包むシート、容器、ボトル、チューブ、点眼容器、注射器、点滴バッグなどが不足すれば、医療現場には届きにくくなります。
薬は、成分だけでは患者さんの手元に届きません。
清潔に包む。
湿気や光から守る。
一定量ずつ安全に使えるようにする。
輸送中に壊れないようにする。
病院や薬局で管理しやすくする。
そのためには、包装材や容器が必要です。
つまり、医薬品の供給リスクは、原薬不足だけでなく、包装材不足、医療資材不足、物流コスト上昇、エネルギー価格上昇まで含めて考える必要があります。

ナフサ・石油化学と関係しやすい医薬品・剤形の代表例
※下記は「この薬が必ずナフサ由来」と断定する一覧ではありません。
同じ一般名・同じジェネリックでも、メーカーや原薬メーカー、添加物、包装材、製造ルートによって事情が異なります。
あくまで、石油化学由来の原料・添加物・包装材・医療資材と関係しやすい代表例として整理したものです。
| 分類 | 代表的な薬・成分例 | ジェネリックとの関係 | ナフサ・石油化学との関わり方 | 補足 |
|---|---|---|---|---|
| 解熱鎮痛薬 | アセトアミノフェン、イブプロフェン、ロキソプロフェン、アスピリンなど | ジェネリック多数 | 有効成分が化学合成で作られるものが多く、芳香族化合物など石油化学系の原料・中間体と関係しやすい | 市販薬にも多い分野 |
| 消炎鎮痛外用薬 | ジクロフェナク、フェルビナク、インドメタシン、ロキソプロフェン外用など | ジェネリック多数 | 有効成分に加え、ゲル基剤、粘着剤、溶剤、フィルムなどに合成高分子が使われやすい | 湿布・テープ剤は特に周辺資材の影響も受けやすい |
| 胃薬・胃酸分泌抑制薬 | ファモチジン、オメプラゾール、ランソプラゾール、エソメプラゾールなど | ジェネリック多数 | 有効成分は化学合成品が多く、錠剤コーティングや腸溶性コーティングにも合成添加物が使われることがある | PTP包装も石油化学素材と関係 |
| 抗アレルギー薬 | フェキソフェナジン、ロラタジン、セチリジン、レボセチリジンなど | ジェネリック多数 | 有効成分の合成工程で石油化学由来の中間体・溶媒と関係しやすい | 花粉症薬・じんましん薬など |
| 抗菌薬 | クラリスロマイシン、アジスロマイシン、レボフロキサシン、セフカペンなど | ジェネリック多数 | 原薬そのものは発酵由来・半合成・化学合成などさまざま。添加物・コーティング・包装材は石油化学素材と関係しやすい | 「抗生物質=全部ナフサ由来」とは限らない |
| 高血圧薬 | アムロジピン、カンデサルタン、ロサルタン、テルミサルタンなど | ジェネリック多数 | 有効成分が化学合成品であることが多く、合成原料・溶媒・添加物と関係 | 長期服用薬なので供給安定性が重要 |
| 脂質異常症薬 | アトルバスタチン、ロスバスタチン、ピタバスタチンなど | ジェネリック多数 | 有効成分は化学合成または半合成のものがあり、原料・中間体・添加物で石油化学と関係 | 生活習慣病薬の代表例 |
| 糖尿病薬 | メトホルミン、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬など | ジェネリックあり・一部先発中心 | 化学合成品が多く、原薬・添加物・包装材で石油化学素材と関係しやすい | インスリンなど生物由来製剤とは分けて考える |
| 精神神経系の薬 | 睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬、抗てんかん薬など | ジェネリック多数 | 多くが化学合成医薬品で、原料・中間体・溶媒・添加物に石油化学由来物質が関係しやすい | 断薬などは絶対に自己判断しない領域 |
| ホルモン薬 | 低用量ピル、ステロイド薬、甲状腺薬など | ジェネリックあり | 化学合成・半合成・天然由来など混在。錠剤化・コーティング・包装材にも石油化学素材が使われることがある | 原薬ごとに由来が異なる |
| 皮膚科外用薬 | ステロイド軟膏、抗真菌薬、保湿剤、抗炎症外用薬など | ジェネリック多数 | 白色ワセリン、流動パラフィン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど、基剤・溶剤が石油化学系と関係しやすい | 外用薬は添加物・基剤の影響が分かりやすい |
| 目薬・点鼻薬 | 抗アレルギー点眼薬、ドライアイ用点眼薬、点鼻ステロイドなど | ジェネリックあり | 防腐剤、粘稠剤、容器プラスチック、点眼ボトルなどが石油化学素材と関係 | 容器の影響も大きい |
| 注射剤・点滴 | 輸液、抗菌薬注射、抗がん剤、ワクチン、各種注射剤など | ジェネリック・バイオシミラーあり | 有効成分だけでなく、溶解補助剤、界面活性剤、安定化剤、点滴バッグ、チューブ、注射器などの影響が大きい | 医療資材依存が特に大きい |
| 坐薬 | 解熱坐薬、便秘坐薬など | ジェネリックあり | ポリエチレングリコールなどの基剤が使われることがある | 小児・高齢者でも使われる |
| 貼り薬 | 鎮痛テープ、湿布、狭心症用貼付薬、ホルモン貼付薬など | ジェネリック多数 | 粘着剤、フィルム、ライナー、合成ゴム、アクリル系ポリマーなどが関係 | 「薬+素材」の影響が大きい剤形 |
| カプセル剤 | 多くの内服薬 | ジェネリック多数 | カプセル素材、着色剤、コーティング剤、包装材に石油化学系素材が関わることがある | ゼラチン由来などもあり、製品ごとに違う |
| 錠剤全般 | 多くの内服薬 | ジェネリック多数 | ポビドン、クロスポビドン、ヒプロメロース、ポリエチレングリコール、コーティング剤などが使われることがある | PMDA・日本薬局方にも多くの添加物が掲載されている |
ナフサ・石油化学と関係しやすい添加物・素材
| 成分・素材 | 使われやすい薬の形 | 役割 | ナフサ・石油化学との関係 |
|---|---|---|---|
| ポリエチレングリコール PEG | 錠剤、坐薬、軟膏、注射剤補助成分など | 溶剤、基剤、安定化、コーティング補助 | エチレン系化学品と関係 |
| ポビドン | 錠剤、顆粒 | 結合剤、安定化 | 合成高分子 |
| クロスポビドン | 錠剤 | 崩壊剤 | 合成高分子 |
| ポリソルベート | 注射剤、液剤、外用剤 | 乳化、分散、安定化 | 合成界面活性剤 |
| プロピレングリコール | 外用薬、液剤、注射剤の一部 | 溶剤、保湿、安定化 | プロピレン系化学品と関係 |
| アクリル酸系ポリマー | 貼付薬、コーティング剤 | 粘着、フィルム形成、徐放性 | 石油化学由来の合成樹脂系 |
| メタクリル酸系ポリマー | 腸溶錠、徐放錠、コーティング | 胃で溶けにくくする、放出調整 | 合成樹脂系 |
| 白色ワセリン | 軟膏、保湿外用薬 | 基剤、保護 | 石油由来の精製炭化水素 |
| 流動パラフィン | 軟膏、外用剤 | 基剤、潤滑、保護 | 石油由来 |
| PTP包装・プラスチック容器 | 錠剤、カプセル、点眼、軟膏など | 包装・保存・衛生管理 | PVC、PP、PE、PETなど石油化学素材が多い |
医療を否定せず、体の声も忘れないという考え方
薬、ワクチン、点滴、検査、手術、画像診断。
これらは、私たちの命を守ってくれる大切な医療です。
痛みを和らげる。
感染症から守る。
血圧や血糖を安定させる。
がんや脳疾患を早く見つける。
救急の場面で命をつなぐ。
現代医療があるからこそ、救われている命は本当にたくさんあります。
だから、薬や検査や医療そのものを否定する必要はありません。
ただ一方で、医療の中で使われるものを見ていくと、そこには私たちが普段あまり意識していない素材や技術もたくさんあります。
石油化学由来の医薬品原料。
ナフサ由来のプラスチックや医療資材。
薬の添加物やコーティング剤。
ワクチン保存のために使われてきた有機水銀系保存剤。
点滴に使われるブドウ糖。
レントゲンやCTによる放射線。
バリウム検査の身体への負担。
こうして並べると、一瞬「えっ、大丈夫なの?」と感じる方もいるかもしれません。
でも、ここで大切なのは、怖がることではありません。
身体に入るもの、身体に浴びるもの、身体に使われるものには、必ず“意味”と“負担”の両方がある。
この視点を持つことが大切なのだと思います。
問題は「石油由来だから悪い」ではない
石油化学由来の素材は、現代医療を支える大切な材料です。
注射器や点滴バッグ、手袋、薬の包装材、チューブ、容器などがあるからこそ、医療は清潔に、安全に、効率よく行われています。
ですから、石油由来だから悪い、添加物だから悪い、人工物だから危険、という単純な話ではありません。
一方で、現代医療がどれほど多くの石油化学素材に支えられているのかは、一般の生活者には見えにくい部分でもあります。
本当の問題は、石油由来かどうかだけではなく、
私たちの命や健康を支える仕組みが、どのような素材・原料・物流・供給網に依存しているのかが見えにくいこと
なのかもしれません。
医療制度は「原料の由来」より「最終製品の品質」を見る
医薬品は、原料が何由来かだけで判断されているわけではありません。
医薬品制度では、最終的にできあがった薬について、有効性、安全性、品質、安定性、不純物、規格、用法・用量、副作用などが審査・管理されます。
つまり、医薬品の世界では、基本的に、
何から来た原料なのか
よりも、
最終的に何という成分で、どの規格に適合し、どの品質で、安全に使えるのか
が重視されています。
この考え方には合理性があります。
なぜなら、同じ成分でも、原料の調達先や合成ルートが変わる場合があり、また最終製品の品質管理こそが、患者さんに直接関わる安全性の中心になるからです。
ただし、原油不足、ナフサ不足、物流不安、医療資材不足が現実的な課題になってくると、これまで見えにくかった「上流の原料」や「供給網」への関心も高まります。
これからは、医薬品の安全性だけでなく、
医薬品が安定して届く仕組みそのもの
にも目を向ける必要があるのかもしれません。
必要なのは、否定ではなく「見える化」
薬を否定したいのではありません。
医療を疑いたいのでもありません。
むしろ、薬や医療が大切だからこそ、その薬を支える背景にも光を当てたい。
薬の有効成分。
添加物。
コーティング剤。
包装材。
容器。
医療資材。
物流。
エネルギー。
原料調達。
これらはすべて、患者さんの手元に薬が届くまでの大切な道のりです。
今後、原油やナフサの供給が不安定になると、薬の有効成分だけでなく、包装材や医療資材、添加物、製造コスト、物流コストにも影響が及ぶ可能性があります。
だからこそ、必要以上に不安になるのではなく、
医療がどのような素材と仕組みに支えられているのかを知ること
が大切です。
身体の備えという視点
原油不足やナフサ不足は、ガソリン代や電気代だけの問題ではありません。
ナフサから作られる石油化学素材は、医療資材、薬の包装、添加物、コーティング剤、容器、チューブ、点滴バッグ、注射器など、医療の土台に深く関わっています。
薬は、必要な時に命を守ってくれる大切な存在です。
検査も、手術も、点滴も、ワクチンも、医療現場を支える大切な知恵です。
ただし、医療を大切にすることと、日頃から身体を整えることは矛盾しません。
睡眠を整える。
呼吸を深くする。
姿勢を見直す。
血流やリンパの巡りを良くする。
腸内環境を整える。
自律神経が乱れすぎないように、身体に余白をつくる。
これは、薬を否定するためのセルフケアではありません。
必要な医療を大切にしながら、薬が必要になる前の身体づくりを意識するということです。
薬は、外から支えてくれる安心。
整体やセルフケアは、内側から整えていく安心。
どちらか一方ではなく、どちらも大切です。
まとめ
これは少し料理に例えると、一流のシェフが素材の良さを大切にしながらも、現場では保存性、コスト、提供スピード、安定した仕上がりのために、加工された油脂や食品素材を使う場面があることに似ているかもしれません。
理想だけを見れば、できるだけ自然で、余計なものが少ない方がよいと感じるかもしれません。
しかし、現場には現場の条件があります。
医療も同じで、薬や医療資材には、効き目だけでなく、保存性、衛生管理、安定供給、使いやすさ、コスト、安全な流通という現実的な条件があります。
その条件を満たすために、石油化学由来の素材や添加物、包装材、医療資材が使われることがあります。
だからこそ大切なのは、「使われているから悪い」と決めつけることではありません。
ただ同時に、「なぜそれが使われているのか」「身体に入るもの、身体に触れるものとして、どこまで見える化されているのか」に関心を持つことは、とても大切だと思います。



